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スタートアップのソーシング方法 - 基本ガイド

東南アジアにおいて、事業提携先候補、若しくは投資先候補となる地場の優良スタートアップを探す(ソーシング)にあたっての、おさえておきたい基本的なガイドラインを纏めました。個別の方法について、詳細や具体的なツール・チャネルをご覧になりたい方は、コラム内のリンクから個別ページを参照ください。

目次:

  1. はじめに
  2. スタートアップデータベースから探す
  3. 政府系機関・ベンチャーキャピタル・アクセラレータ等のネットワークから探す
  4. スタートアップカンファレンスのかしこい使い方
  5. スタートアップの目利きのポイント

はじめに

本コラムでは、これから東南アジアでスタートアップとのオープンイノベーションに取組む方、ある程度やってきたが改めてキャッチアップしたい、という方向けに、「スタートアップのソーシング」についてシェアさせて頂きます。(あくまでも基本であり、他にも良い方法は色々とあると思いますので、フィードバックも大歓迎です!)。

まずは・・・イノベーション活動の目的設定

スタートアップをソーシングする上で、最も重要なことは、「目的を定義できているか」ということです。貴社(あなた)がスタートアップと出会いたい目的はなんでしょうか。投資したいから、でしょうか。それとも事業提携したいからでしょうか。投資であるとすると、どの領域、どれくらいの規模感、どの程度のリターンの目線で考えていますか?事業提携であるとすると、既存ビジネスで抱える課題を解決する為でしょうか。それとも既存ビジネスの顧客提供価値を高める為でしょうか。或いは全く新しい事業を生み出すためでしょうか。
多くの企業では、目的がぼやけた状態で「なんとなく」スタートアップ探しを行ってしまいがちです。まず探し始める前に、「なぜ?」「何を?」探すのかを言葉に落とし込みましょう。それが分かれば、おのずと、使用するツールや連絡すべき相手がハッキリとしてきます。

自分のことも「見つけやすい」状態にしておく

さて、目的設定の次は早速アクションに移りたいところですが(そしてそれでも良いのですが)、忘れてはならないのが、自分をスタートアップサイドからも見つけやすくしておくということです。つまり、自分のプロフィールを整備する、ということになります。大企業と提携意欲のあるスタートアップは積極的に相手先を見つけにいっています。日本企業に興味を持っているスタートアップも多くいます。しかし、多くの日本人は「見つかりにくい」状態になっている為、機会をたくさん失っているのです。

具体的にやるべきこととしてオススメしたいのは、LinkedInアカウントの設定です。LinkedInは基本的にどのスタートアップも活用しており、海外で人を探す時は絶対に使われるツールです。筆者らの経験では、日本人の半分以上はきちんと整備されたプロフィールを持っていない為、アクセスしたくても出来ない状態に筆者らなっていることが多いです。以下は最低限作成時に気をつけたいポイントです。

プロフィール写真

人は見た目が9割と言いますが、これはスタートアップとの出会いにおいても同じです。プロの写真家にお金を払って撮ってもらうのがベストですが、今であればスマホで友人に撮影してもらっても構いません。きっちりとビジネス仕様の顔写真を撮影し、LinkedInのトップに必ず使って下さい(写真が無いだけで、アクセス率はがくんと落ちます)。それから、Zoomのプロフィール写真やWhatsAppでも基本的には同じ写真を使いましょう。

経歴・現在の仕事

できる限り詳細に、英語で記載してください。組織名、役職だけではなく、経験内容(業務・プロジェクト内容、滞在国など)を充実させることを意識しましょう。(←将来の転職などにも役立ちます!

 

スタートアップデータベースから探す

さて、目的とプロフィールを設定できたら、「ソーシング」開始です!

無料データベースを使いこなす

東南アジア、特にシンガポールでは、無料でそれなりに内容が充実しているスタートアップデータベースが存在します。使わない手は無いので、登録しておくようにしましょう。まずご紹介したいのは、StartupSGです。StartupSGとは、シンガポール政府機関のEnterprise Singaporeが主導するスタートアップ育成のイニシアティブの名前で、様々なスタートアップ・企業向けの支援サービスを提供しています。本ウェブサイト上のデータベースでは、シンガポール国内3,400超のスタートアップ、600近い投資家、200以上のインキュベーターやアクセラレータを簡単に検索することが可能です。

Series Aを調達 x AIで検索してみた結果

次にご紹介したいのが、東南アジアのスタートアップ情報に特化したデジタルメディアe27のデータベースです。当データベースは東南アジア全体をカバーし、33,000社以上の情報を格納しています。所在国や業界で絞り込むことができ、現在資金調達中の企業のみを探す機能もついています(下記)。但し、こちらの機能で上がってくるスタートアップは別途料金を払っているスタートアップに限られるため、網羅性という観点では限界があることをご了解ください。

インドネシア x Finance x 現在資金調達中で検索してみた結果

有料データベースで厚みのある情報を

ある程度の予算が使えるという方は、より効率的なリサーチの為に有料のデータベースを何か一つ使用しましょう。一般的に、有料データベースは個社の掲載データ、ディール情報、関連ニュースが無料のそれよりもかなり充実しています。また、情報の鮮度も高く、スタートアップの会社情報以外に専門的・体系的な業界レポートも閲覧出来たりと、いくつかの利点があります。フィーは会社によって異なりますが、一般的な有料データベースで、年間で一ライセンスあたりUS$6,000くらいからと考えておくのが良いかと思います(価格は時期やユーザー数等で変動することが多い為、一概には言えませんが)。

もしも東南アジアや近接地域(インド)等のプライオリティが高い場合には、当該地域の企業情報が充実していると言われるTraxcnが良いかもしれません(当地で投資活動を行うVCも使用していると聞きます)。グローバルをカバーしたい場合には、CB InsightsPitchbookCrunch Base等が選択肢となるでしょう。

もしそこまでの予算を割くのが難しい場合には、Tech In Asiaの有料購読者が見られるデータベース(年間$240以下)を活用する手段もあります。個社のデータやディール情報は上記の専用ツールと比較して薄いものの、データベースとしてはアジアを中心にe27の2倍の65,000社以上をカバーし、データベース以外のアナリストによる業界レポートがインサイトに富んでいる為、それを全て読めるというだけでも、費用対効果はあるように筆者は感じています。

 

メディア・ニュースレターから探す

データベースは探したいスタートアップや業界・テクノロジーが定まっていて絞り込みをかけるようなアプローチを採る場合に有効なツールとなりますが、対象が絞り切れていないフェーズや、飛び地の事業を構築しようとしていてそのインスピレーションを求めている場合には向かないことがあります。そこでうまく活用したいのがメディア・ニュースレターです。

Google Alertで広く網をかける

Google Alertがピンと来ない方は今すぐ検索して設定してみましょう。予めキーワードを設定しておくと、好きなタイミングで、自動で拾ってきたウェブ上のニュースを纏めてメールしてくれるという便利な機能です。筆者の場合はスタートアップの資金調達情報を見ることで全体的なトレンドを把握したいという目的があるので、例えば「シンガポール スタートアップ 調達」というシンプルなキーワードを設定していたりします。Google Alertの良いところは、どのようなメディア媒体であろうと、Google上に出たものは基本的にチェック対象にしてくれているという点です。

ニュースレターに登録する

一方で、Google Alertでは拾えないのが、個別企業・組織が登録者のみにメールで提供してくれるニュースレター(メルマガ)です。殆どのアクセラレータ・政府系機関・VCではニュースレターを発行して、支援先のスタートアップの情報を定期的に配信してくれます。色々と登録をしてみて、気に入ったものを残すやり方がオススメです(JSIPメンバーのお勧めするニュースレターやメディアについては別途、纏めています)。また、LinkedInも多くの企業アカウントから情報発信されているので、気になる組織を検索して「フォロー」をしておくと、イベント情報やニュース速報が察知できるので、オススメです(筆者の場合は仕事の関係上、東南アジアの有力VC、Enterprise Singapore、EDB、Tech in Asia、DealStreetAsia、Singapore Venture Capital & Private Equity Association等をフォローしています)。

メディアの有料スタートアップ紹介サービスを活用する

スタートアップに特化したメディアの場合、蓄積したスタートアップの情報を活用して、ビジネスマッチングをサービスとして提供するプレイヤーも存在します。海外スタートアップに特化したTechblitz(運営:イシン株式会社)はその一例です。

 

政府系機関・ベンチャーキャピタル・
アクセラレータ等のネットワークから探す

これまで見てきたやり方は、一定の情報を「面」で取るには有効なアプローチでしたが、イノベーションや新規事業を実際に進めることを踏まえると、情報の「深さ」はどうしても足りません。個別企業の戦略や優先順位などについては、公開されることが少ないためです。よって、最終的に頼らなければならないのは「人のネットワーク」となります。例えばVCのディールソーシングにおいても同じことが言えますが、基本的には誰か信頼できる人物のリファーラルでスタートアップを紹介された場合にのみ投資を検討する、というポリシーを持つキャピタリストも多いです(そうしなければ、毎日何件もコールドコールで投資検討依頼が入ってきて到底処理しきれない為です)。

そこで活用したいのが、スタートアップ支援をミッションとする政府系機関、スタートアップに投資・支援を提供するVC・アクセラレータ、スタートアップと協力関係を結んでいるコンサルティングファームなどです。これらの機関の多くは、スタートアップ向け支援の一つとして、事業パートナーや潜在顧客の紹介を行っています。ある程度連携目的がハッキリとしており、スタートアップ側のベネフィットが描けそうであれば、仲介役となってスタートアップと繋いでくれるでしょう。

シンガポールの代表的な政府系機関・VC・アクセラレータ等については別途纏めておりますので、ご参照ください。

アプローチをする際には、事前にProblem statement・興味対象を文字に落とし、伝えることを強くお勧めします。また、VCの場合には投資先をウェブサイト上で公開していることが多いので、事前に投資先や好むセクター等を調べ、具体的な協業相談を持ちかけることが重要となります。VCにイキナリ話し掛ける前に相談したい、という方についてはJSIP運営メンバーで壁打ち相談も受けておりますので、こちらのお問合せフォームからご連絡下さい。英語でのコミュニケーションも問題無いという方は、下記のVCマップに現地VC含め、東南アジアの代表的なプレイヤーを纏めていますので、ご参考下さい。

なお、これは一部の先駆的な日本企業の間で使われているアプローチとなりますが、信頼できるVCに一定金額をLPとして出資し、定期的に投資先スタートアップを紹介してもらうというやり方もあります。LPになると、協調投資の機会を得ることができたり(但し、一定の投資額が求められる)、四半期レポートやアニュアルミーティングを通じた情報へのアクセスを得ることができます。資金調達中のVCを探すには、機関投資家が使うPreqinを使ってデータベースから絞り込むアプローチも有りますし、VCへのLP投資を行う機関投資家や事業会社と関係を構築し、情報をシェアしてもらう等のアプローチもあるでしょう。良いVCファンドであれば、2-4年おきくらいに資金調達のサイクルが回るので、急いでいなければ、まずは会って興味があることを伝えておき、調達が始まった時に声をかけてもらうやり方もあります。

 

スタートアップカンファレンスの
かしこい使い方

イベントも出会う場所の一つです。Covid-19で今はまだリアルイベントの再開は待ちの状況の国が多いですが、やはりリアルでの出会いに勝るものはありません。但し、ただただ規模が大きいイベントはオススメできません。ネットワーキングの為のカクテルレセプションがあり、ある程度入場できる人が限られているような会の方が、出会いの質は担保されます(有料のケースもありますが、敢えてイベントの為に出張するくらいなのであれば、追加で少し支払ってでも参加するべきです)。また、筆者は、リアルイベントの場合、スタートアップに出会うことよりも、有力な投資家やイベント主催者と知り合い、友達になることを優先するようにしてきました。自分の興味関心をインプットできれば、イベント中や後に、人を紹介してもらえる可能性があるからです。イベント主催者は参加者に満足してもらうことが重要なので、喜んで繋いでくれるハズですし、多くの日本人が苦手とする初動(お酒片手に突然声をかけるヤツ)を代行してくれるので、その面でも楽することが出来ます。

 

スタートアップの目利きのポイント

では気になるスタートアップを見つけた時に、どのようにすれば有望かどうかの見分けがつくのでしょうか。これについては、絶対的な解があるわけではありませんが、VCとして初期的なチェックをする場合のポイントについて最後に触れておきます。

資金調達フェーズと投資家をチェック

まずは資金調達のフェーズをチェックしてください。一般論として、資金調達のフェーズはスタートアップの事業の成熟度と連動しています。

あくまでも目安ですが、シリーズBが成功裏に調達できていれば、スタートアップのプロダクトがマーケットに受け入れられており、売上もついてきていると考えられますので、大企業との事業連携に関して対応できる状態になっていると言って良いのではないでしょうか。
次に見るべきは投資家の顔ぶれです(前述の有料データベース、またはニュースなどからチェック可能です)。ここでは、著名なVC投資家が投資しているかどうか?というポイントと、SeedやSeries Aの投資家が複数回投資しているかどうか?を見て下さい。シード・アーリーステージのVC投資家は2~3回続けて投資を行うこと(フォローオンと言います)を見越して投資余力(Dry powder)を残しています。それを使わずに一度の投資だけに留めた、ということは何らかの事情があると推察するべきです。

経営陣の経歴をチェック

次に、LinkedInを使って経営陣の経歴を確認しましょう。シリアルアントレプレナーで、過去に創業とExitを経験した起業家であれば、一つの安心材料にはなります。大学卒業して初めての起業です、というスタートアップがダメということでは全くありませんが、その場合には共同創業チームやアドバイザー特に入念にチェックし、一定の経験者がチームメンバーとして参画しているかどうかを確認することをオススメします。

上記をチェックした後は、(もし知り合いからリファーラルをとれるようであればとった上で)実際に会ってみて、自分の目で確かめてみましょう。特に投資の観点で、より詳しくVCの投資基準について勉強されたい方は、Z Venture Capital大久保氏のnoteが分かりやすいのでオススメしています(海外の一流VC/アクセラレータの投資基準を日本語で纏め直した内容となっています)。

また、上記と相反することに聞こえるかもしれませんが、スタートアップと付き合う際には、ある程度までの不完全さは受け入れる姿勢を持つことと、とにかく足を使って会い、経験を蓄積することがコツとなります。また、これは日系大企業に見られがちですが、面談をした時に「自社の売上はXX、グローバルでXXカ所にオフィスを有し、幅広い事業を展開しています」とマウンティング説明に15分も20分も時間を割いてしまうのはやめておきましょう。企業規模の差や創業者との年齢差などはあれど、企業は本質的に対等です。オープンイノベーションのディスカッションにおいては、自社に畏敬の念を持たせることがゴールではなく、互いの課題、やりたいこと、不足しているケイパビリティ等を共有し、そこから何がお互いできるかをビルドアップしていくマインドセットが重要となります。日系企業を巻き込んだオープンイノベーション支援に注力しているVC Vertex Holdingsのレポート「Global Open Innovation Insights」では、海外スタートアップとのオープンイノベーションにおける実務的留意点について纏められているので、詳しく知りたい方はご参考下さい。

 

最後に

JSIPではスタートアップ連携や新規事業の構築について、相談にのっております。お気軽にコミュニティアクセラレータメンバーまでご連絡下さい。JSIPのVenue PartnerであるOne&Coに当該メンバーもおりますので、アポイントメント無しでも、直接お声掛け頂くことも歓迎です(雑談でも、全く問題ありません!)。

また、コンソーシアム企業については、特定分野の専門家である編集委員やエバンジェリストへの無償壁打ち相談も行うことが可能ですので、まずはコミュニティアクセラレータメンバーまでご相談下さい(→コンソーシアム企業とは)。
皆様のイノベーション活動が少しでも効果的に、効率的に進むことを、心から願っております!