Japan Sea Innovation Platform

イノベーションエコシステム全体像
ー 1年いてやっとわかる全体像を1ページで ー

目次

企業の経営課題の視点から東南アジアを捉える
―東南アジアの生産拠点以上の魅力とは―
• 企業の本質的な経営課題とは
• シリコンバレーと同じ土俵に立つ東南アジア

東南アジアのイノベーションエコシステムの全体像を理解する
―シンガポールと東南アジア各国のエコシステムの関係性とは ―
• 東南アジアのスタートアップの勃興
• 東南アジアのイノベーションエコシステムの本質

参考リンク集

企業の経営課題の視点から東南アジアを捉える

―東南アジアの生産拠点以上の魅力とは―

日本企業にとって東南アジアは長らく現業の生産拠点として捉えられてきた。現在も東南アジアの各国に生産拠点を持ち、シンガポールをハブとして各国の生産拠点をマネジメントしている企業は多い。一方で、世界中の企業はシンガポールを含む東南アジアの違う魅力に気づき始めている。そもそもシンガポールを含む東南アジアを全体としてどう捉えるべきなのだろうか?まずは、企業の本質的な経営課題という視点から、シンガポールを含む東南アジアを捉えてみたい。

企業の本質的な経営課題とは

今、あらゆる企業が直面している本質的な経営課題の一つは「イノベーション」である。多くの企業が現業(既存のビジネスモデル)による成長に限界を感じており、イノベーションによる持続的な成長を如何に創り出すかに経営として本腰を入れて取り組んでいる。イノベーションというと、イノベーション=新規事業として捉えられることが多いが、それは狭義の捉え方である。現業の効率性・生産性の改善もイノベーションであり、現業のトランスフォーメーションもイノベーションである。イノベーションの本質的な目的は「世界の未解決課題の解決 / 未来創造」であり、世界全体を包括的な視点(SDGsも含む)で捉え、これからの時代の企業価値・事業価値を創造的なアプローチで再構築することこそがイノベーションである、という認識が高まっている。

特に、直近では、大企業のみならず中小企業も含めて、あらゆる企業の経営者のイノベーションに対する「切実さ」がより高まってきている。イノベーションは必要ではなく「必要不可欠」であるという認識が高まっている。今や、現業がレッドオーシャン(現業における血みどろの競争)に直面している、という課題認識のみならず、そもそもの現業自体が破壊され、消失すらしかねない(競争さえできない・土俵にさえ立てない)、イノベーションに経営として本腰を入れて取り組まなければ未来は無い、という課題認識を持つ企業が全ての業界に渡って増えてきている。もはや、イノベーションとは、現業の国内市場の縮小、競争激化、収益低減以上の強烈な危機感、そして、経営としての覚悟を持って推進すべき「切実な経営課題」であるという認識である。

また、自社のみでイノベーションという切実な経営課題に立ち向かうのではなく、「パートナーシップ」が重要視されてきている。世界中でイノベーションをリードするイノベーター・スタートアップ・ベンチャーキャピタル・イノベーションアクセラレーター・イノベーションコクリエーター、そして、多様なイノベーションのプラットフォームとしてのイノベーションネーション・イノベーションシティ・イノベーションイニシアチブ・イノベーションプラットフォーマー・イノベーションコミュニティとの戦略的なパートナーシップに多くの企業が取り組み始めている。これからの激動の時代において、「自社以外の世界中が自らの潜在的な経営資源である」という考え方で取り組むべき時代になってきたと言える。


 

シリコンバレーと同じ土俵に立つ東南アジア

これまでは、日本の多くの企業にとっては、シリコンバレーがイノベーションのパートナーであり続けてきた。シリコンバレーには、最先端のテクノロジーや最先端のコンセプトがあり、イノベーションのメジャーリーグである、と形容する人達も少なくない。一方で、シリコンバレーのベンチャーキャピタルからも、シンガポールを含む東南アジアは、今まさに注目を浴びてきている。「シリコンバレーに成長する市場は無いが、東南アジアには成長する市場がある」「シリコンバレーには顧客はいないが、東南アジアには顧客がいる」という声もよく耳にする。東南アジアには、潜在的な市場があり、顧客の宝庫である。また、世界的なSDGsのトレンドの中で、東南アジアの多様な社会課題の存在にも焦点があたっている。イノベーションという視点での東南アジアの魅力はますます高まっている。

そして、東南アジアにはイノベーションネーション・シンガポールがある。シンガポールは国家主導でのトランスフォーメーションとしてトレーディングハブ・ファイナンシャルハブからイノベーションハブへと戦略的に転換してきている。シンガポールは「未来のビジネスモデルの実験国」であり、東南アジアにある切実な社会課題、潜在的な市場・顧客の課題を解決し、未来を創造するためのイノベーションハブとして機能している。シンガポールという存在は、イノベーションという視点での東南アジア全体の魅力を更に押し上げている。シンガポールを含む東南アジアは、シリコンバレーには無い「ユニークな魅力を持つイノベーションエリア」として、世界中から、そして、シリコンバレー自体からも認識されるようになってきている。

 

今、多くの企業がイノベーションを切実な経営課題と捉える中で、最先端のコンセプト・テクノロジーを獲得することのみならず、新たな市場・顧客を既に抑えるビジネスモデルを一体として獲得することができる、という視点で、シンガポールを含む東南アジアは、近年、急速に注目度を集めてきている。現業の生産拠点というのみならず、コーポレートトランスフォーメーション・コーポレートイノベーションのための戦略拠点として捉えられている。シンガポールを含む東南アジアを小さな視点で捉えると、その潜在力をフルに活かすことはできない。包括的な視点で東南アジアを捉えることで、企業にとっての無限大のチャンスが見えてくる。それが現代のシンガポールを含む東南アジアの本質であると考えられる。

 

東南アジアのイノベーションエコシステムの全体像を理解する

―シンガポールと東南アジア各国のエコシステムの関係性とは ―

東南アジアは、個々に異なる多様な国家の集まりであるとして捉えられるケースが多く、イノベーションという視点でシンガポールをハブとして全体としてどのようなエコシステムを形成しているか、という全体像が掴みづらい。シンガポールにいる日本人からは、数年いるにもかかわらず全体像の理解には苦労をしている、という声も聞けば、シンガポールローカルからは、日本人・日本企業に対して何度も同じような説明をしていてもう限界である、という声も聞く。ここでは、東南アジアのイノベーションエコシステムの基本的な全体像を抑えていく。

東南アジアのスタートアップの勃興

世界の未解決課題の解決・未来創造、つまり、イノベーションが地球規模で加速する流れは止まらない。世界全体でのスタートアップ投資額は年々成長し、現在は数十兆円規模に達している。世界経済の成長率を超える形でスタートアップ投資額は加速している。その中で「イノベーションといえばシリコンバレーという時代は終わった」という声もよく耳にするようになった。スマートシティイノベーションのスウェーデン、リビングラボのフィンランド、ディープテックイノベーションのイスラエル、ハードウェアイノベーションの深圳など、挙げればキリが無いが、それぞれの特性を持つイノベーションエリアへと多極化・分散化してきている。その中で、イノベーションネーション・シンガポールを含む東南アジアにも注目が集まっており、多数のスタートアップが勃興してきている。

東南アジアのスタートアップは、コンシューマーテックからスタートした。マーケットプレイスのLazada・Tokopedia・Bukalapak、ライドシェアリングのGrab・Gojekなど、多数のコンシューマーテックスタートアップが東南アジアを牽引してきた。東南アジアの各国で創業したスタートアップの多くは、シンガポールにてヘッドクオーターを設立するなども含めて、シンガポールを戦略的に活用して加速度的に成長してきた。そうした一連の流れの結果として、アリババがLazadaを買収し、TokopediaとGojekは合併し、 Bukalapakも上場し、Grabも上場を目指す。そして、GrabやGojekは、コンシューマーサービスをワンプラットフォームに統合するスーパーアプリとして進化を遂げており、コンシューマーテックはシンガポールを含む東南アジアを象徴する存在であると言える。

 

また、東南アジアのスタートアップは、コンシューマーテックにとどまらない。東南アジアのスタートアップの流れは、コンシューマーテックに加えて、ヘルスケア、ロジスティクスなどの切実な社会課題に対するディープテックスタートアップ、そして、スマートシティなどの切実な都市課題に対するスマートシティスタートアップも現れてきている。また、世界中で従来型の資本主義への問題意識が高まってきている中で、サステナビリティスタートアップ、ウェルビーングスタートアップ、業界・会社の垣根を超えた東南アジア発の国家イニシアチブ、国際イニシアチブも見逃せない。そして、コロナが顕在化する中でも、シンガポールにおけるスタートアップ投資額はコロナ以前と同様に年々成長させているという。シンガポールを含む東南アジアのスタートアップの勃興から目が離せない。

東南アジアのイノベーションエコシステムの本質

東南アジアのイノベーションエコシステムの本質は、先行的に発展してきたシンガポールのイノベーションエコシステムとの関係性の中で捉える必要がある。シンガポールのイノベーションハブ戦略とは、世界中のイノベーション(テクノロジー、製品・サービス、スタートアップ等)を実績が無い段階から受け入れ、シンガポールでの社会実験・社会実装を実現し、その成果を実績としてショーケース化して、東南アジアを含むアジア・グローバルの課題解決・未来創造に繋げていくという一大イノベーションエコシステムを形成していくことにある。シンガポールから東南アジアへのブリッジも含めた、各イノベーションプロセスに対してシンガポール政府機関(ESGなど)が徹底的にサポートする国家基盤があり、シンガポールと東南アジアのイノベーションの関係性が構築されている。

直近では、シンガポールがイノベーション国家としての世界的なポジションを確立してきた中で、東南アジア各国も頭角を現してきている。特に、インドネシアは、巨大人口を有する成長国家というポジションにとどまらず、サステナビリティ国家としての世界的なポジションも確立しつつある。インドネシア政府はUNDP及びデンマークと戦略提携してサーキュラーエコノミーイニシアチブをローンチした。そして、サーキュラーエコノミーを国家戦略に据える最初の東南アジアの国になった(と、報道された)。そして、イノベーション国家としての先駆者であるシンガポールから学び、インドネシアも「未来のビジネスモデルの実験場」になることを国家主導で推進し続けている。イノベーションという視点において、シンガポールと並び、インドネシアも注目する時代になってきている。

イノベーションという視点で先行的に発展してきたシンガポールが東南アジアと戦略的に連携しながら、東南アジア各国のイノベーション国家戦略にも影響を与え、シンガポールと東南アジアのイノベーションでの関係性がより強化されていく。インドネシアはサステナビリティ、タイはデジタルなどで東南アジア各国がイノベーションという視点での独自のポジションを確立し、東南アジア各国のイノベーション国家としての存在感も高まり、全体としての魅力度が更に高まっていく。この全体像がシンガポールを含む東南アジアである。もはや東南アジアは生産拠点である、シンガポールは金融国家である、インドネシアは発展途上国である、などの認識のままではいられない。世界中の企業が新しい認識のもとシンガポールを含む東南アジアのイノベーションエコシステムを既に戦略的に活用している。

シンガポールの
イノベーションエコシステムの最前線