シンガポールの
エコシステム最前線

ーイノベーション国家シンガポールの最前線では何が起こっているのかー

シンガポールは、国家主導でのトランスフォーメーションとしてトレーディングハブ・ファイナンシャルハブからイノベーションハブへと戦略的に転換してきている。そして、世界においてもイノベーションネーションとしての頭角をあらわしてきている。一方で、国家主導のイノベーションネーション・シンガポールの国家戦略、そして、最前線については、全体像をもって理解しづらいことも確かである。ここでは、イノベーションという視点でのシンガポールの国家戦略の全体像、そして、最前線に焦点を当てる。

イノベーション視点での
シンガポールの国家戦略とは

シンガポールは、国土が極めて小さく資源も限られている中で国家としての生き残りかけ、国家としての存在意義を高め続けなければならない、という強烈な動機が大前提にあり、国家主導でのトランスフォーメーションとしてトレーディングハブ・ファイナンシャルハブからイノベーションハブへと戦略的に転換してきている。シンガポールが目指すイノベーションハブは、下記の3つの特性がある。

01

「世界のイノベーションのアーリーアダプター」

第一に、シンガポールは「世界のイノベーションのアーリーアダプター」である。アーリーアダプターとは、切実なニーズがあるため新たな製品・サービスを実績が無い段階から受け入れようとする集団を指すが、シンガポールはまさに世界のイノベーションのアーリーアダプターである。シンガポールは、世界中のイノベーション(テクノロジー、製品・サービス、スタートアップ等)を実績が無い段階から受け入れ、シンガポールでの社会実験・社会実装を実現し、その成果を実績としてショーケース化して、アジア・グローバルの課題解決・未来創造に繋げていく、というイノベーションの国家戦略に従い、運営されている。そして、レギュラトリーサンドボックス(実験のための一時的な規制緩和)の法制度化も含めてのイノベーション国家基盤を構築している。

02

「デジタルイノベーションの社会実装国」

第二に、シンガポールは「デジタルイノベーションの社会実装国」である。シンガポールの特徴は、デジタルイノベーションにある。シンガポールは国家としてスマートネーションをビジョンに掲げ、国家主導の統合デジタルプラットフォームを整備するなど、国家全体としてデジタルイノベーションの社会実験・社会実装を後押ししている。毎年、バルセロナで開催される、世界最大級のスマートシティカンファレンスであるSmart City Expo World Congress 2018において、シンガポールはthe smart city of 2018に選出されている。世界のスマートシティの最前線におり、多様な失敗・成功の蓄積が積み重なっている。シンガポール政府・民間も含めて、デジタルイノベーションの社会実装という観点で、引き続き、世界をリードしていく、と口を揃えて話している。

03

「アジア・グローバルへのゲートウェイ」

第三に、シンガポールは「アジア・グローバルへのゲートウェイ」である。シンガポールの特徴は、周辺国に切実な社会課題・都市課題を持つ市場があることである。シンガポール政府・政府機関関係者は、世界全体として人口が都市に集中するアーバナイゼーションが進んでいく未来を明確に見据えている(国連からも2050年における人口の都市集中に関する発表があった)。都市国家であるシンガポールは「未来のビジネスモデルの実験場」になることが、世界にとって本質的に意義のある存在になることに繋がると捉えている。よくシンガポールと東南アジアは国家として成熟度が全く違う、という声を聞くが、シンガポールは東南アジアの各都市を軸としたエコシステムを形成しており、50年や100年単位での中長期的な視点の未来を見据えて世界中とのエコシステムを形成しようとしている。

上記がイノベーションハブとしてのシンガポールの特性である。これまで世界中の企業が既にシンガポールを含む東南アジアのイノベーションエコシステムを戦略的に活用しており、その事例は枚挙にいとまがない。日本企業の事例も豊富である。ある日本のインフラ企業は、ある最先端の自社開発テクノロジーをベースとしてインキュベートしてきた新都市交通インフラの世界で初めての受注をシンガポールで実現し、アジア展開・世界展開の足掛かりを形成した。また、ある日本の製造業は、最先端のテクノロジーを実装した無人化工場のモデルケースをシンガポールで創り上げ、東南アジア各国、そして、世界の工場拠点へ展開するのみならず、日本の事業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現する形でシンガポールを戦略的に活用している。

最後に、コロナ時代のシンガポールについても言及したい。これからの時代のシンガポールの国家戦略は、フィジカルとバーチャルが高度に融合したハイブリッド型のイノベーションハブである、と捉えられる。コロナが顕在化した2020年のSFF×SWITCHは、単なるバーチャルカンファレンスを超越しており、まさに象徴的であった。ウェブサイトには、バーチャル地球があり、バーチャルシンガポールがあり、まさに地球規模でのデジタルツインを感じさせた。メインとなるバーチャルカンファレンスは5日間・24時間開催であり、まさに世界中が時間と空間を越えて繋がるようになっていた。コロナが顕在化して世界中が混乱する中で、シンガポール全体が横断的に連携して新たなシンガポールの姿として世界中に発信した。これからの時代のシンガポールにも注目である。

シンガポールのベースにある
強烈な価値観

「国家主導」はシンガポールを表すキーワードの一つである。シンガポールに関する疑問としてよく耳にするのが「なぜシンガポールでは国家主導が成立しているのか?」「なぜ日本では国家主導が成立していないのか?」「なぜ市民は国家を受け入れているのだろうか?」「なぜ日本は国家を受け入れていないのだろうか?」「シンガポールにある根本的な価値観とは何だろうか?」という点である。イノベーションという視点でシンガポールを戦略的に活用するためには、まさにシンガポールのベースにある根本的な価値観を理解することが重要であり、それがシンガポールやシンガポール人を本質的に理解することにも繋がり、そして、シンガポール人との共創活動を加速することにも繋がる。シンガポールのベースにある価値観とは一体、何だろうか。

シンガポールから独立した(させられた)歴史、リー・クアンユーの強烈なリーダーシップの影響、国土が極めて小さく資源も限定的であるという地理的・物理的な要因。シンガポールのベースにある根本的な価値観には、様々な要因が影響しており、一概に言うことはできない。詳細なファクトも含めて専門家にお任せしたいと考えるが、「シンガポールは国土が極めて小さく資源も限られている中で国家としての生き残りをかけ、国家としての存在意義を高め続けなければならない」という強烈な動機が基本的な価値観として定着している、という形で言語化できるだろう。よくシンガポール人は、未来志向である、多様性を受け入れる、上から目線ではない、対話型である、共創に向いている、などと表現がされる。上記の基本的な価値観によって整合性がつき、理解を深めることができる。

改めてではあるが、シンガポールのベースにある根本的な価値観が、国家主導でのトランスフォーメーションをし続けていることに繋がっており、シンガポール人の特性にも繋がっていることは間違い無いだろう。一方で、当然ではあるが、国家主導でのトランスフォーメーションに関する要因を価値観だけに求めることはできない。シンガポールはファインカントリーと言われる通り、国家主導での罰則・罰金による国民の行動制限、そして行動制限を徹底する国家基盤などの多様な要因の影響がある。いづれにせよ、イノベーションという視点では、シンガポールのベースにある根本的な価値観を理解することは、シンガポールという国家、シンガポール人、シンガポールに集う人々をよく理解することに繋がり、お互いに理解を深めた上でいい共創関係を築くための基本であると言える。

イノベーションエコシステム戦略として
シンガポールを捉える

ー自社のイノベーションにシンガポールをいかに戦略活用するかー

これからの破壊と創造の時代において、イノベーションは必要不可欠であり、経営としての覚悟を持って推進すべき切実な経営課題である。そして、現業の生産拠点としてのみならず、イノベーションのパートナーシップという視点でシンガポールを含む東南アジアを本質的に理解し、戦略的に活用することが重要である。それでは、イノベーションという視点でシンガポールをいかに戦略的に活用していけばよいのであろうか。ここでは、多くの企業の多様な失敗・成功のケースに基づく、シンガポールを戦略的に活用するためのチェックポイントを示す。

シンガポールを戦略的に
活用するためのポイント

まず、シンガポールを戦略的に活用するためには抑えておくべきポイントがある。シンガポールでの多くの企業の多様な失敗・成功を見たり、聞いたりしてきた結果に基づき、失敗確率を減らし、成功確率を高めるためのポイントが見えてきている。シンガポールを戦略的に活用する、そして、成果を創出するためのポイントを下記にまとめる。シンガポールにてこれから活動する方には事前チェックポイントとして、シンガポールで既に活動されている方には自社活動のレビューポイントとして活用していただきたい。


01
これからの時代への強烈な危機感が経営・現場にあるか?

これからの時代への強烈な危機感がイノベーションを「必要不可欠」なものとし、経営としての覚悟を生み出す。それが大前提として現業の活動よりも常に弱く、潰されやすい立場にあるイノベーションについて、これからの時代のために経営として守り、育て、加速していこう、といういいメカニズムを生み出す。やるリスクばかりを指摘される現業の経営の中で、やるリスクよりもやらないリスクを経営の議論の俎上にのせることも可能となり、現業とイノベーションが対等な関係性となる。これからの時代への強烈な危機感とは、現業の国内市場の縮小、競争激化、収益低減以上の危機感、つまり、現業の破壊、現業の消失への危機感である。ここで、これからの時代への強烈な危機感に関する具体的なチェックポイントを下記にまとめる。

  • 自社の現業を破壊する可能性のあるビジネスモデル(スタートアップ)はどのようなビジネスモデル(スタートアップ)か?そして、どのように現業を破壊する可能性があるか?
  • 自社の本質的な強み(非財務資本)を前提とすると未来にどのような創造の機会があるか?その創造の機会が他社に取られる可能性がどの程度あるか?
  • 上記を前提とした経営と現場で共通の強烈な危機感のロジック(ストーリー)があるか?

多くの企業が強烈な危機感のロジック(ストーリー)がないままに(曖昧なままに)「自社にとって新しいビジネスを見つけてこい」「自分で試行錯誤して何とか成果を出せ」という形でシリコンバレーやシンガポールに人材を送り込むことがあまりにも多い。ここで、経営からのイノベーションの基本方針・基本戦略が無いことを理由にするのではなく、経営も現場のリアリティがわからない、現場も経営のリアリティがわからない、という鶏卵の課題であると理解することが極めて重要であり、現場からボトムアップでも経営に働きかける必要がある。シンガポールでイノベーション活動をうまく進めている多くの企業には、経営を待つのでなく自ら働きかける、経営を批判するのでなく自らがきっかけを創る、という信念を持つミドルリーダーの存在がある。一人の人間が大企業を動かすことができる。


02
イノベーションにおける
本質的なパートナーシップ戦略があるか?

イノベーションを経営課題として考えた場合、①イノベーション経営基盤・組織基盤の確立、②0→1活動の絶え間ざる実践、の二大要素がある。このそれぞれについて本質的、且つ、重層的なパートナーシップが求められる。自前主義を掲げながらも自前主義から脱却ができない企業、パートナーシップを謳いながらも部分的なパートナーシップに終始する企業はあまりにも多い。多くの企業がイノベーションにおける本質的なパートナーシップ戦略が無く、現場が疲弊している。それにも関わらず経営は自分達の責任だと思っていない。イノベーションの二大要素を前提とした本質的、且つ、重層的なパートナーシップは、イノベーションにとって必要不可欠である。ここで、イノベーションにおける本質的なパートナーシップに関する具体的なチェックポイントを下記にまとめる。

  • 世界中のイノベーションの失敗・成功のナレッジを持ち、イノベーション経営基盤を共創型でデザインして共にバージョンアップし続けることができるイノベーション経営パートナーはいるか?
  • 世界中の多様なビジネスモデルへのナレッジを持ち、未来基点の自社のビジネスモデルの多様なパターンを共に創り出すことができる、イノベーションコンテンツパートナーはいるか?
  • 0→1活動の失敗・成功の実践的な経験を持ち、イノベーションのアクションプラン構築・実行を加速することができるイノベーションプロセスパートナーはいるか?
  • 業界・会社の垣根を超えて多様な共創パートナーとのネットワークを持ち、イノベーションの共創を加速するイノベーションネットワークパートナーはいるか?
  • これからの時代のイノベーションに向けて、あらゆるレベル感の自分らしい目的の言語化のための気づきや学びがあり、言語化を助けてくれるラーニングパートナーはいるか?
  • これまでの時代からこれからの時代への転換という視座を持ち、世界観・未来観の対話による気づきや学びがあり、自らの考え方の整理と自らの目的の言語化を助けてくれるフューチャーパートナーはいるか?

これまでの時代からこれからの時代へ向けてイノベーション自体が大きく変わろうとしている。グレートリセット、ステークホルダー資本主義、SDGs、サーキュラーエコノミー、Well-beingなど業界・会社の垣根を越えるコンセプトが次々と出てきており、これまでの時代の前提となる価値観、業界・会社の垣根を大きく超えた形でイノベーションに取り組むべき時代になってきている。そうした中において、一人一人の個人の活動をベースとした知識や経験や仲間だけでは限界がある。まさに、人と人、組織と組織とのパートナーシップから、自分以外の多くの人々の活動をベースとした知識や経験や仲間について、互いに共有し合い、互いに学び合うことを通じて、イノベーションを共創していく時代である。パートナーシップがこれからの時代のイノベーションの成否をわけることは間違いない。


03

共創(コクリエーション)を
リードする潜在力ある人材はいるか?

最後に、イノベーションを担う人材について言及したい。近年、デザイン思考やリーンスタートアップなどのスタートアップイノベーション手法が体系化され、企業が取り込む流れも顕著になってきている。一方で、スタートアップイノベーション手法が、あたかもイノベーションのすべてかのように盲信するケースも多く見かける。企業とスタートアップの本質的な違いは先人達が確立してきた現業があることであり、先行して蓄積してきた非財務資本があることである。よって、コーポレートイノベーションの本質は、これからの時代に向けた多様な非財務資本の掛け合わせを前提とした共創にある。つまり、共創人材こそ、企業のいかなるイノベーションにも必要不可欠であり、グローバルイノベーションでも同じである。ここで、共創人材に関する具体的なチェックポイントを下記にまとめる。

  • 【価値観】資本主義的な価値観(経済的成長 / 財務数値 / 株主価値 / 規模・効率)に固執していないか?より多様な価値観(持続的繁栄 / 非財務資本 / ステークホルダー価値 / 探索・実践)を受け入れるか?
  • 【使命感】内発的な目的・内発的な動機(自分自身の内側から沸き起こる目的・動機)があるか?自らの使命感を言語化して他人に語ることができ、共創の基盤である共感を創れるか?
  • 【行動原理】一人一人の人間を大切にし、お互いに尊重し、学び合ういい関係性を築こうとしているか?異なる価値観・考え方・働き方に対して、文句・批判・攻撃をしていないか?論点・課題の指摘でなく、一歩前に進めるアイデアを常に出し、自ら主体的に行動しているか?定期・非定期的な内省や自問自答を通じて、自分自身をバージョンアップしているか?
  • 【能力】これまでの時代とこれからの時代の転換を踏まえて大目的を自ら言語化できる力があるか?大目的に向けて世界中の先人達の成功・失敗のナレッジを戦略的に活用できるか?大目的を実現するビジネスモデルを共創型でデザインし、実験・実証できる力があるか?現場のリアリティを経営視点でのストーリーに組み立てる説明力を備えているか?

シンガポールを含む東南アジアでのイノベーション活動に必要不可欠な人材は、まさに上記を満たした共創人材であり、お互いに補完し合える共創チームである。共創人材・共創チームとは能力のみならず、価値観・使命感・行動原理が統合された人材・チームである。一方で、ローカルからは日本企業の人材・チームに関する不満の声をよく耳にするというのが実態である。イノベーションは人間がすべてである。一人の人間がチームに対して圧倒的に悪影響を与え、圧倒的にいい影響も与える。上記を満たす共創人材・チームが社内・社外を超えて繋がり、共創することでイノベーションが加速する場面を何度も見てきた。イノベーション人材の選定は、根本的、かつ、本質的な経営課題であり、最重要視して取り組むべきである。

シンガポールの戦略的活用の方向性

最後に、日本企業にとってのシンガポールの戦略的活用の方向性について共有する。シンガポールには世界中の企業がイノベーションを目的として集結している。シンガポールに集結する多くの企業のイノベーション戦略・イノベーション活動から、シンガポールの戦略的な活用の方向性のモデルを抽出した。下記のモデルを初期的な基点として自社の戦略について検討することで、最速でシンガポール戦略を構築することができるはずである。ここで、シンガポールの戦略的活用の方向性に関する具体的なチェックポイントを下記にまとめる。

01

アイディエーション・戦略プランニング拠点

シンガポールは、イノベーションを軸として多様な人材が集まり、多様な情報や知識や経験が集まっている。また、東南アジアはもちろん、世界中の人材と出会い、繋がり、そして、対話することができる。多様性の中でのリアリティあるアイディエーション、戦略プランニングが可能である。

02

ビジネスモデル実験拠点

切実な課題を持つマーケットに隣接するシンガポールにて、これからの時代のビジネスモデル / スタートアップを探索し、ビジネスモデルを実験・検証する拠点として活用することができる。アジアのみならず、日本国内の現業への還元、そして、現業自体のトランスフォーメーションの実現という視点での活用も期待できる。

03

顧客開発拠点

シンガポールには統括拠点が集結しており、アジア・グローバルの意思決定者へのリーチが可能となる。シンガポールにて既存・新規の製品・サービスの営業・マーケティングや顧客開発に繋げていくことが期待できる。また、顧客開発活動を通じて、顧客からイノベーションパートナーとしての認識を戦略的に獲得するケースも出てきている。

04

人材開発拠点

これからの共創型イノベーションの時代に向けて、日本国内での現業中心の人材開発だけでなく、グローバルでの共創型イノベーションの実践を通じた人材開発への要請が高まっている。現在、シンガポールでは、多くの企業によって共創型イノベーション人材開発プログラムが実施されている。

以上のように、シンガポールの戦略的活用の方向性には多様なモデルがあり、企業にとって現業の生産拠点の周辺国マネジメント拠点という以上の潜在力がある。世界中の企業がシンガポールを戦略的に活用しており、日本企業もシンガポールをイノベーションの戦略拠点として経営として捉え始めている企業も多くなってきている。これからの時代は激動の時代である。これまでの時代からこれからの時代に大きく転換していく。世界の未解決課題を如何に解決して未来を創造するか。これからの時代の企業価値・事業価値を如何に再構築するか。イノベーションによる持続的な成長を如何に創り出すか。これからの時代のイノベーションにおいてシンガポールを含む東南アジアをいかに戦略的に活用するか。日本企業にとって、ますます重要な経営課題の一つになってきている。

おわりに

今、世界中で従来型の資本主義への問題意識が高まっている。人類は資本主義を発明し、資本主義における経済合理性という明確な判断基準の下で、経済を成長させ、生活を豊かにしてきた。そうした状況の中で、今、従来型の資本主義によって軽視 / 無視されてきた人々や課題に対して焦点が当たっている。拡大し続ける格差、地球環境の絶望的な状況。従来型の資本主義の枠組みでは解決できない多様な課題が、我々の目の前に押し寄せている。

これまでの時代は、財務的な数値(GDPや売上・利益など)を主要な目的とし、基本的には周囲を敵と見なして、戦うこと、勝つこと、支配すること、儲けることに相対的に価値があると考えられていた時代であった。よって、自分さえ勝てばいい、自分さえ儲ければいい、自分さえよければいい、という基本的な価値観を持つ人間を量産した。そして、みんなにとって大切なものを守ることができず、結果としてみんなで破壊し続けてきてしまった。

これからの時代は、世界にとって本質的に意義のある「目的」から再構築する必要がある。そして、財務数値を超えた大きく意義のある目的だからこそ、基本的には周囲を仲間と考え、相手を理解すること、共感すること、共学すること、共創することに相対的に価値がある時代になる。一人一人がみんなのことを考え、みんなにとって大切なものをみんなで守り、そして、一人一人が自分らしい人生を歩んでいく、ということが基本的な価値観になるはずだ。

こうしたコンテキストを背景として、日本のイノベーションが全体として加速するためのイノベーションの社会インフラであり、イノベーションのコモンズという目的のもとでJSIPが立ち上がった。JSIPの大きな目的に共感する仲間が結集してスタートした。みんなにとって必要なイノベーションのプラットフォームをみんなで共に創り、そして、一人一人が自らのイノベーションの目的を追求していく、JSIPはそういう存在にしていきたいと考えている。

大きな目的のためにJSIPというプラットフォーム自体もみんなで共に創りながら、進化しなければならないだろうと考えている。何年も先に、何十年も先に、何百年も先に、未来のリーダー達からJSIPの存在自体に感謝されることを目指す挑戦。従来型の資本主義を超える世界を創り出す挑戦。これこそがイノベーションの社会インフラであり、イノベーションのコモンズを目指すということの私達の責任であり、私達の使命なのであろうと考えている。

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